夢という星海原に漂う綺羅星たちの物語、個別回ラストラップ二番手はきららちゃん。
『モデルで忙しいから、世界は救わない』とクールにプリキュアを断っていた女の子が、気付けば誰かの夢になった時、そしてその夢が自分の夢を傷つける時、一体何を選ぶのか。
天ノ川きららという、宇宙で一番ハンサムな女の夢の果てを、妥協なく描くエピソードでした。


きららちゃんは自分をしっかり持って夢にむかって走る、はるかが目指すべき一つの答えとしてお話に登場しました。
モデルという彼女の夢はプリキュアよりも優先するものだったのですが、はるかの素直な魂に触れて両立を目指し、実際にやりぬいて綺羅星のごとく輝く期待の新星となったのが、今回までの流れ。
そこからさらに輝くための第一歩というところで、プリキュアの使命……というよりも、これまできららが自分の足で歩いてきた生き様自体が立ちふさがります。

強く自分を持っているということは、時として優しさの欠如に繋がるということは、彼女の登場エピソードである第4話で軽く、しかし丁寧に描写されています。
『プリキュアよりモデル』だったきららの価値観が『プリキュアとモデル』に変化する時、大事だったのはあくまではるかという友人との関係であり、ホープキングダムの奪還やディスダーク阻止という大きな目標は、きららにとってリアリティがありません。
あくまで自分と、自分と繋がる誰かのために。
それが天ノ川きららというハンサムな少女のスタートラインであり、人格的な原点だといえます。

しかし今回、きららは『モデルよりプリキュア』という選択をして、りんりんの夢を守って自分の夢を砕く。
彼女の原点に背くような決断は、一つにはこれまで42話積み上げてきたきららの人格的成長を表しています。
友に促され、一瞬夢へのチケットに足を向けるきららの逡巡は、第4話で見せたクールで自分一人に目一杯な(それ故魅力的な)天ノ川きららが消え去ったわけではないことを教えてくれます。
しかし夢にむかって進むうちに、自分自身が誰かの夢になっていたこと、プリキュアとして戦うことは即ち、誰かの夢を守るということを思い出して、きららは自分の夢に背中を向ける。
その時大事なのは『友達が苦戦しているから』とか、『プリキュアは戦わないといけないから』という外部的な要因ではなく、プリキュアとして、モデルとして歩んできた胸の痛みが、苦しむ誰かの夢を見放すことを許してくれないからでしょう。
その共感能力の発達はやはり、子供が大人になっていくお話であるこのアニメでは、凄く大事なことです。

第4話でクローズさんに「お前の夢なんてどうせ、大した夢じゃねぇだろう!」と煽られてプリキュアに変身したきららは今回、りんりんの『秘密』が暴かれたことに怒り、それを自分が半分背負っていることを自覚して、不帰の戦場に立ち戻る。
そこにあるのは、38話をかけて広がったきららの世界そのものであり、自分一人では夢にむかって走り切れないという、製作者からのメッセージの蓄積でもあります。
『誰か』のために走ってきたわけじゃないけど、『誰か』に支えられなければ走れなかったし、走ることで見も知らぬ『誰か』を支えてきた。
夢の持つ孤独さと暖かさ、両方を捉える視座はやはり、第35話から深まっていったはるかとカナタの物語と響き合う、作品全体の大きなテーマなのでしょう。

夢を追いかけていたら夢自体になっていたという歩みも、かつて夢を支えてくれたカナタに、自分自身が夢となって記憶を取り戻させたはるかと、重なるものがあります。
人格的完成度が低いところから歩き出したはるかと同じように、一見完璧に思えたきららもしっかり人生を歩き、どこかに到達しているのだという見せ方は、キャラクターを置物にしない見事な操縦です。
決意を込めて自分の夢に背中を向け、自分に憧れる少女のために戦ったきららは、やっぱり宇宙で一番かっこいいわけです。


しかし、一つの夢を選んだ結果は非常にシビアで、社長はため息を付きながら謝罪を繰り返し、きらのモデルという夢は大きく座礁します。
この結末を衝撃的に見せるために、きららが上昇気流に乗っていること、それがきららにとって大きな幸福であり更に前に出たいと思っていること、同室のトワもそれを後押ししていることを、今回丁寧に描写していました。
りんりんの肩もみは拒絶するのにトワの髪梳きは許容するところに、ルームメイトとして二人が過ごした時間の濃厚さを感じるわけですが、あそこで夢の輝きを語っていたからこそ、星の光がなくなるラストが衝撃的なわけです。

プリプリはこれまでのプリキュアが持っていた『お約束』に巧くカウンターを当てている劇作でして、不思議な力でワープすることも、すんごい努力でなんとか間に合うこともなく、きららは勝負のステージに間に合いません。(とは書いたんだけど、実はプリキュアシリーズってこういうタイミングでの都合のいい展開って案外少ないのよね。あくまで印象としての『お約束』という意味合いで一つ)
一つの夢を選ぶことは、一つの夢を捨て去ることでもあるというシビアさは、プリキュアシリーズ全体への批評的営為という側面を持つ、プリンセスプリキュアらしい終わり方です。
第38話でクローズさんが言っていた『夢がお前を追い詰める』という呪いが、ロングパスで帰ってきた趣がありますね。

しかし、シビアであると同時にお伽話(というか、この2つは排他ではなくお互い響き高め合う要素)であるプリプリは、誰かを守るために自分の夢を諦めたきららを、くすんだ星として描きます。
誰かの夢を守ったきららの輝きが消えたのは、もちろんその結果自分の夢を捨てた痛みもあるんでしょうが、常に前を向いて走り続けるというきらららしい輝き、自分の原点に背いたからではないか。
あそこで友と被害者を捨て置いて飛行機に向かってしまえばきららはプリキュア失格なわけですが、かと言って自分の夢、自分らしさに背中を向けることも正しくない。
ここらへんの都合の悪さは、非常にプリプリ的だといえます。

きららが第4話で出した結論を考えると、来週は『自分の夢を貫く強さも、他人の夢を守る優しさも、全て正しく手に入れる。両方やるのが天ノ川きらら流だ!』という原点に帰ってくる話だと思います。
しかしそこに至るまでには、厳しい現実の蹉跌があり、夢に向かって歩く自分に憧れる後輩の視線があり、これまでの物語で変化したきららの生き様がある。
立つはずだったステージを見てきららが傷つくだろうと、TVをけしてくれるはるかの友情があるわけです。
強すぎて泣けないきららの代わりに泣いてくれる、はるかの優しさはやっぱ有り難い。

ファンタジックな小道具を使いつつも、少女が歩いて行く人生を彩る色んな要素を、けして省略しないこと。
夢を守り、夢を見るヒーローが感じる喜びと痛みを、丁寧に拾い上げて描写すること。
プリンセスプリキュアが貫いてきたテーマと、それを表現するための哲学は、今回より鋭さをまして演出されたように思います。
そしてこれまでの歩みからして、きららの価値ある夢への離反が、より良い形で解決するという確信と期待も、否応なく高まる。

『キャラクターエピソードの連続を、下げ調子で終わる前編と、その解決たる後編二話跨ぎで終わらせる』という、形式的な冒険がどう生きてくるのか。
差し入れとして手作りの巨大ドーナッツをいきなりぶっ込むグラビティレズ、りんりんはどういうクッソ面倒くさい動きをするのか。
重い女の横殴りにも一切動揺せず、真夜中にルームメイトの髪を撫でる余裕を見せたトワ様は、どんだけぶっ込んでくるのか。
再び輝いた星は、どれほどの光を放つのか。(輝きが戻るのは当然なので、心配していない)
色々なものへの期待と、これまで積み上げてきたものへの感謝が入り交じる、天ノ川きららラストエピソード、前編でした。
いやホントね、きららちゃん宇宙で一番ハンサムな少女だよ……来週、もっとカッコいいところ見せて欲しいね。